大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)10085号 判決

原告

土山友幸

外四名

右五名訴訟代理人弁護士

虎頭昭夫

大口昭彦

遠藤憲一

被告

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

栗原壯太

外一〇名

主文

一  被告は、原告土山友幸に対し、七万五五一四円及び内金一三三三円に対する平成二年一二月一一日から、内金五万円に対する同月一三日から、内金一万一四二四円に対する同月一九日から、内金一万二七五七円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告石田俊正に対し、七万八四八〇円及び内金一四三二円に対する平成二年一二月一一日から、内金五万円に対する同月一八日から、内金一万二八〇八円に対する同月一九日から、内金一万四二四〇円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告土山友幸及び原告石田俊正その余の請求ならびに原告別府一憲、原告井上長治及び原告高橋恒男の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告土山友幸及び原告石田俊正と被告との間に生じたものは被告の負担とし、原告別府一憲、原告井上長治及び原告高橋恒男と被告との間に生じたものは同原告らの負担とする。

五  この判決は、(1) 第一項中、六万二七五七円及び内金一三三三円に対する平成二年一二月一一日から、内金五万円に対する同月一三日から、内金一万一四二四円に対する同月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員の支払を命じた部分並びに(2)第二項中、六万四二四〇円及び内金一四三二円に対する同月一一日から、内金五万円に対する同月一八日から、内金一万二八〇八円に対する同月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員の支払を命じた部分に限り、仮に執行することができる。

ただし、被告が六万二七五七円の担保を供するときは(1)についての仮執行を、六万四二四〇円の担保を供するときは(2)についての仮執行を、それぞれ免れることができる。

事実及び理由

〔以下において、第一及び第二の「前提事実」で用いた略称は、それ以降の全体について使用し、第二の冒頭及び第三で用いた略称は、それ以降の当該原告部分についてのみ使用する。〕

第一  請求

一  被告は、原告土山友幸(以下「原告土山」という。)に対し、五二万五五一四円及び内金一三三三円に対する平成二年一二月一一日から、内金五〇万円に対する同月一三日から、内金一万一四二四円に対する同月一九日から、内金一万二七五七円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告別府一憲(以下「原告別府」という。)に対し、五二万五七九八円及び内金一二七五円に対する平成二年一二月一一日から、内金五〇万円に対する同月一三日から、内金一万一六二四円に対する同月一九日から、内金一万二八九九円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告井上長治(以下「原告井上」という。)に対し、五三万〇三五六円及び内金一五三〇円に対する平成二年一二月一一日から、内金五〇万円に対する同月一三日から、内金一万三六四八円に対する同月一九日から、内金一万五一七八円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告高橋恒男(以下「原告高橋」という。)に対し、五二万七〇七二円及び内金一五〇四円に対する平成二年一二月一一日から、内金五〇万円に対する同月一三日から、内金一万二〇三二円に対する同月一九日から、内金一万三五三六円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告石田俊正(以下「原告石田」という。)に対し、五五万六九五八円及び内金二八六三円に対する平成二年一二月一一日から、内金五〇万円に対する同月一八日から、内金二万五六一六円に対する同月一九日から、内金二万八四七九円に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事実の概要

本件は、郵便局に勤務する原告らが、平成二年(以下、特に断らない限り、平成二年を指す。)一一月一二日(原告土山、同別府、同井上及び同石田)又は同月二三日(原告石田及び同高橋)につき年次有給休暇(以下「年休」という。)の時季指定をしたところ、被告が時季変更権を行使し、原告らが各当日欠勤したことを理由として賃金をカットした上、訓告に付したのは、違法無効であるとして、カットされた賃金、労働基準法(以下「労基法」という。)一一四条による附加金及び不法行為に基づく慰謝料の支払を求めている事案である。

(前提事実)

以下の事実は、当事者間に争いがないか又は括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる。

1  原告らは、いずれも、郵便局に勤務し、郵便業務に従事する職員(郵政事務官)であるが、その勤務時間等については、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法六条に基づいて定められた昭和三三年公達第四九号「郵便事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」(以下「規程」という。)、規程八八条に基づいて定められた昭和五六年郵人給第四二号「勤務時間等の特例の実験について(依命通達)」(以下「基本通達」という。)、同じく平成二年郵人要第一三号「勤務時間等の特例の実験の実施について(依命通達)」(以下「追加通達」という。)の適用を受け、次のような取扱いがされている(乙一、六、七の1、2、乙D六)

(一) 勤務時間

職員の勤務時間については、一日について八時間以内、一週間について四四時間以内、四週間について一六四時間とされている(規程五条、基本通達の記2の(1)のア、追加通達の記1の(1))。

(二) 勤務の指定及び変更

(1) 所属長は、各職員について、四週間を単位として、その期間における各日の勤務の種類、始業時刻及び終業時刻並びに週休日(労基法三五条にいう休日に当たるものと解される。)を定め(以下「勤務の指定」という。)、これを当該期間の開始日の一週間前までに関係職員に通知する(規程二六条)。

なお、右勤務の指定の通知の運用方針としては、所属長が、各職員ごとに各日の勤務の種類等を適宜の符合をもって表示した勤務指定表を作成し、これを各職員に周知させることによって行うものとされている。

(2) 所属長は、欠務の発生若しくは業務ふくそうの場合又は急速処理を要する業務のある場合において、人員の繰り合わせ上必要があるときなど、所定の業務上の事由がある場合は、勤務の指定の一部又は全部について、これを変更することができる(同二八条一項本文)。

なお、勤務の指定の変更の運用方針としては、所属長は、勤務の指定の変更を行うに際し、本人から個人的な事情について申し出があったときは、社会通念に従い、できるだけこれを斟酌して行うようにすることとされている。

(三) 週休日の指定及び振替え

(1) 所属長は、毎週所定の勤務日六日について一日の週休日を指定する(規程一八条一項)。

(2) 所属長は、欠務の発生若しくは業務ふくそうの場合又は急速処理を要する業務のある場合において、人員の繰り合わせ上必要があるときなど、所定の業務上の事由がある場合は、週休日を他の日に振り替えることができる(規程一九条一項)。

なお、週休日の振替えの運用方針としては、所属長は、週休日の振替えを行うに際し、本人から個人的な事情について申し出があったときは、社会通念に従い、できるだけこれを斟酌して行うようにすることとされている。

(四) 非番日の指定及び変更

(1) 所属長は、職員の勤務時間が四週間を通算して前記(一)に定める勤務時間を超えないようにするため、四週間内の勤務日のうち三日を非番日として指定する(基本通達の記3の(1)及び(3)、追加通達の1の(1))。

(2) 非番日の指定及び変更は、勤務の指定及び変更の規定を準用して行う(前記(二)参照)。

なお、非番日は、職員の勤務時間が所定労働時間を超えないように労働時間の調整を行うために設けられたものであるが、非番日も週休日と同様に休みの日であるという認識が職員間に定着していることから、郵便局の実態としては、できるだけ週休日と同様の運用が行われるような取扱いがされている。

(五) 祝日における勤務命令と祝日給

(1) 祝日(国民の祝日に関する法律に規定する休日をいう。以下同じ。)における正規の勤務時間については、当日勤務することを命ぜられている職員のほかは、勤務を要しない(規定三四条一項)。

なお、祝日における勤務の運用方針としては、祝日における勤務命令は、一般の職務命令と同様の方法により、口頭その他適宜な方法で行うこととされているところ、通常は、勤務指定表に勤務の種類を示す符号をもって表示することによって行われ、反対に、祝日において勤務を要しない場合は、勤務指定表に休日であることを示す符号をもって表示されている。

(2) 祝日に勤務を命ぜられた職員については、祝日給として、勤務した時間数に応じた手当が支給される。祝日に勤務を要しないこととされた職員については、原則として祝日給は支給されないが、祝日に非番日の指定を受けた場合は、勤務しなくても八時間勤務したものとして、祝日給が支給される。なお、非番日の指定を受けた職員が出勤した場合は、祝日給と同様の算出方法により、超過勤務手当が支給されるから、祝日に非番日の指定を受けた職員が出勤した場合には、祝日給と超過勤務手当の両方が支給される。

(六) 年休の時季指定及び時季変更権の行使

年休の時季指定を行う職員は、所属長に対し、請求書を、原則として、その希望する日の前日の正午までに提出する(規定六九条一項)。

職員から年休の時季指定があった場合において、所属長が時季変更権を行使するときは、その旨を当該職員に意思表示をするとともに、当該職員から特に求められたときは、その事由の要旨を口頭で通知する(同七〇条一項)。

2(一)  一一月一二日(月曜日)は、即位礼正殿の儀が行われた日であるが、当日は、平成二年法律第二四号によって休日とされ、同附則二項によって、他の法令の規定の適用については、国民の祝日に関する法律に規定する日とする旨定められた。同法を受けて、一一月一二日の職員の勤務時間等については、平成二年郵人要第九三号「即位礼正殿の儀の行われる日における職員の勤務時間等の取扱いについて(依命通達)」によって、祝日の取扱いをする旨定められた(乙E一一)。

(二)  一一月二三日(金曜日)は祝日であった。

(原告土山関係)

一  争いのない事実

1 原告土山は、平成二年当時、東京国際郵便局第一国際郵便課に勤務し、到着係(配置人員 上席課長代理一名、その他職員四二名)において、船便通常郵便物の到着業務に従事していた。

2 到着係には一〇のチームがあり、上席課長代理を除く職員四二名はいずれかのチームに所属していた。各チームの担当業務は、事故業務に専従する一チームを除いて不定であり、事故業務専従チームを除く他の九チームは、九つに区分された取扱業務(事故業務を除く。)を一週間ごとに順次交替して担当する体制になっており、原告土山もこの循環服務の勤務体制に組み込まれていた。

3 原告土山は、一〇月二九日、川口勝第一国際郵便課長(以下「川口課長」という。)に対し、勤務を命ぜられた一一月一二日(以下「本件当日」という。)を休日にしてほしい旨、勤務の指定の変更を申し入れたが、同課長がこれを認めなかったので、同日について年休の時季指定をした(以下「本件時季指定」という。)。これに対し、川口課長は、同月八日、業務支障を理由として時季変更権を行使し(以下「本件時季変更権の行使」という。)、一二月上旬に年休を付与する予定である旨通知した。

4 原告土山は、本件当日出勤しなかった。

5 被告は、一二月一八日を支払日とする原告土山の同月分の給与から本件当日の一日分に相当する一万一四二四円及び同月一〇日を支払日とする平成二年の年末手当から右一日分に相当する一三三三円、以上合計一万二七五七円を差し引くとともに、本件当日同原告が欠勤したことを理由として、一二月一三日、郵政部内職員訓告規程に基づき、同原告を訓告に付した(以下「本件訓告」という)。

二  主たる争点

1 本件時季変更権の行使の適否

2 本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否

3 原告土山の請求金額の当否

三  当事者の主張の骨子

1 争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

(一) 被告

本件時季変更権の行使は、原告土山に年休を付与すれば業務の正常な運営に支障が生じることが予想されたためにしたものであり、次に述べるとおり適法である。

(1) 川口課長は、本件時季指定の後、年末繁忙期における到着物数の予測、それに伴う要員配置等について検討した結果、本件当日には、約一四万五〇〇〇通の要処理物数が生じることが予測され、到着係において当初予定していた一八名の配置人員では相当の未処理物数が生じるものと予想された。そこで、川口課長は、本件当日の要処理物数の処理状況いかんによっては、本件当日から始まる週全体の業務運行に支障が生じかねないと判断し、一一月八日、人員の増配置を決定し、既に休日等の指定を受けていた職員に対して勤務の指定の変更を行い、八名を増配置する措置を講じた。このようにして配置された二六名という人員は、本件当日の業務運営に必要な最低のものである。したがって、原告土山に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であったが、人員の増配置を必要とするような状況の中では、それは不可能であった。

(2) 原告土山は、越塚幸造(以下「越塚」という。)を代替勤務者として配置することが可能であった旨主張するが、次に述べるとおり右主張は、失当である。すなわち、まず、一〇月二九日の時点では、同原告は代替勤務者の具体的な名前を明らかにしていなかった。原告土山が代替勤務者として越塚の名前を申し出たのは、本件時季変更権の行使の後である一一月九日午前一一時過ぎである。また、越塚は、被告が、同日午後、本件当日の人員増配置のための出勤を要請した際、用事があると言って拒否したのであり、代替勤務を事前に了解していたことには疑問がある。仮に、越塚が代替勤務を事前に了解していたとしても、増配置のための出勤要請は拒否するが、年休のための代替勤務者としてなら出勤するような職員がいることまで予測することは、使用者としての通常の配慮を超えているというべきである。

(二) 原告土山

本件時季変更権の行使は、「即位の礼」反対集会に出席させまいとする政治的意図の下に、次に述べるとおり代替勤務者の確保が可能であったにもかかわらず、年休付与のための配慮をせずにされたものであり、違法無効である。

すなわち、原告土山は、かねてより本件当日は休むつもりで予定を入れていたので、本件当日について出勤の指定がされていることを知った一〇月二九日に、本件当日について休日の指定を受けていた越塚から勤務の交替について了解を得た上、川口課長に対し、本件当日は、越塚を自分の代わりに出勤させ、自分については休日指定に変更してもらいたい旨申し入れており、かつ越塚が同原告の職務を代行することに支障はなかったのであるから、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務の指定を変更して越塚を代替勤務者として配置することが客観的に可能な状況にあったことは明らかである。

2 争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

(一) 原告土山

本件時季変更権の行使及び本件訓告は、いずれも労基法三九条の趣旨に反するものであり、不法行為を構成する。原告土山は、被告の右不法行為により、著しい精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価するならば、五〇万円を下らない。

(二) 被告

争う。

3 争点3(原告土山の請求金額の当否)について

(一) 原告土山

原告土山は被告に対し、一二月分の給与及び平成二年の年末手当のうち、それぞれ本件当日の一日分に相当する未払賃金、これと同額の附加金、不法行為による慰謝料の一部として五〇万円、並びにこれらに対する各遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

争う。

(原告別府関係)

一  争いのない事実

1 原告別府は、平成二年当時、東京国際郵便局第二国際郵便課に勤務し、差立係(配置人員 課長代理二名、職員二二名)において、船便小包郵便物及びSAL小包郵便物の差立業務に従事していた。

2 差立係には五つのチームがあり、課長代理二名を除く職員二二名はいずれかのチームに所属していた。各チームの担当業務は、事故業務に専従する一チームを除いて不定であり、事故業務専従チームを除く他の四チームは、四つに区分された取扱業務(事故業務を除く。)を一週間ごとに順次交替して担当する体制になっており、原告別府もこの循環服務の勤務体制に組み込まれていた。

3 差立係では、一一月一二日(以下「本件当日」という。)は、同原告を含む八名が出勤の指定を受け、一二名が休日、一名が週休日、三名が非番日の指定を受けていた。

4 原告別府は、一一月六日、前川一誠第二国際郵便課長(以下「前川課長」という。)に対し、本件当日を休日にしてほしい旨、勤務の指定の変更を申し入れたが、同課長がこれを認めなかったので、同日について年休の時季指定をした(以下「本件時季指定」という。)。これに対し、前川課長は、同月八日、業務支障を理由として時季変更権を行使し(以下「本件時季変更権の行使」という。)、一二月上旬に年休を付与する予定である旨通知した。

5 原告別府は、本件当日出勤しなかった。

6 原告別府は、一二月一三日、日勤(午前九時始業)の勤務に指定されていたにもかかわらず、何の連絡もないまま遅刻し、当日の勤務を一時間一八分欠いた。

7 被告は、一二月一八日を支払日とする原告別府の同月分の給与から本件当日の一日分に相当する一万一六二四円及び同月一〇日を支払日とする平成二年の年末手当から右一日分に相当する一二七五円、以上合計一万二八九九円を差し引くとともに、本件当日同原告が欠勤したこと及び右6の欠務を理由として、一二月一三日、郵政部内職員訓告規程に基づき、同原告を訓告に付した(以下「本件訓告」という。)。

二  主たる争点

1 本件時季変更権の行使の適否

2 本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否

3 原告別府の請求金額の当否

三  当事者の主張の骨子

1 争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

(一) 被告

本件時季変更権の行使は、原告別府に年休を付与すれば業務の正常な運営に支障が生じることが予想されたためにしたものであり、次に述べるとおり適法である。

(1) 差立係では、祝日は、結束便(郵便物を搭載する船舶又は航空機で、翌日出港又は出航が予定されている便)の関係で、船便小包郵便物の差立業務は行わず、専らSAL小包郵便物の差立業務のみを行うことになっているため、二四名中八名の職員を配置してこれに対応していた。右八名については、平常時は日勤として配置しているが、年末年始の繁忙期間中(一〇月一日から一月一四日までの間)に限っては、一六時間勤務(いわゆる宿直)として一名を配置し、その余の七名を日勤として配置していた。したがって、本件当日差立係において出勤の指定を受けた八名(日勤七名(うち一名は課長代理)、一六時間勤務一名)という人員は、祝日の業務運営に必要な最低配置人員であり、原告別府に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であった。

(2) 原告別府の代替勤務者として考えられるのは、差立係に所属し、本件当日出勤の指定を受けていなかった職員である。ところが、本件当日は、日曜日(差立係の職員については、日曜日は原則として週休日となっている。)に引き続く祝日で連休となっているため、出勤の指定を受けていなかった職員には既に予定が入っていることが予想され、また、過去において、祝日に職員から年休請求がされたことはなかったので、原告別府に年休を付与するためにこれら職員の勤務の指定を変更してまで出勤を命ずるというような取扱いは相当ではないと考えられた。したがって、原告別府の代替勤務者を確保することは困難であり、同原告が出勤しなければ、最低配置人員を欠き、業務の正常な運営に支障が生じることが予想される状況にあった。

(3) 原告別府は、交替要員を用意してその旨前川課長に伝えているから、代替勤務者が必要であれば確保できたはずである旨主張する。確かに、原告別府は、交替要員を用意した旨前川課長に伝えてはいる。しかし、その氏名を具体的に明らかにしていないのであるから、前川課長において、独自に代替勤務者を探すことは、使用者としての通常の配慮を超えるというべきである。

(二) 原告別府

本件時季変更権の行使は、「即位の礼」反対集会に出席させまいとする政治的意図の下に、次に述べるとおり年休付与のための配慮をせずにされたものであり、違法無効である。

(1) 被告は、差立係における祝日の業務運営に必要な配置人員は八名である旨主張するが、五名ないし八名程度の配置で十分である。

(2) 仮に、原告別府に年休を付与するために代替勤務者を確保することが不可欠だというのであれは、原告別府は、一一月六日、本件時季指定に先立ち、交替要員を用意して、その旨前川課長に伝えているのであるから、同原告において右交替要員の氏名を明らかにしなくても、被告においてその氏名を確認することは一挙手一投足で足り、使用者として通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保することはできたはずである。

2 争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

(一) 原告別府

本件時季変更権の行使及び本件訓告は、いずれも労基法三九条の趣旨に反するものであり、不法行為を構成する。原告別府は、被告の右不法行為により、著しい精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価するならば、五〇万円を下らない。

(二) 被告

争う。

3 争点3(原告別府の請求金額の当否)について

(一) 原告別府

原告別府は被告に対し、一二月分の給与及び平成二年の年末手当のうち、それぞれ本件当日の一日分に相当する未払賃金、これと同額の附加金、不法行為による慰謝料の一部として五〇万円、並びにこれらに対する各遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

争う。

(原告井上関係)

一  争いのない事実

1 原告井上は、平成二年当時、芝郵便局第二郵便課に勤務し、特殊係(配置人員 職員二八名)において、森谷勝博総務主任(以下「森谷主任」という。)をリーダーとするチーム(人員六名。以下「森谷チーム」という。)に所属し、書留郵便物等の差立及び到着業務に従事していた。

2 第二郵便課では、各係ごとに四交替制の勤務体制が採られており、各チームごとに担当する勤務の種類(時間帯)が特定され、その上で各職員の勤務の指定がされる仕組みになっていた。

3 一一月一二日(以下「本件当日」という。)は、配達業務を行う祝日であり、特殊係では、日勤(午前九時から午後五時三四分まで)一名、中勤(午前一〇時から午後六時三四分まで)二名、一六時間勤務(いわゆる宿直。午後四時一二分から翌日午前九時一〇分まで)二名、一六時間勤務の宿明け(前日午後四時一二分から当日午前九時一〇分まで)二名の合計七名が配置されたが、森谷チームは、このうち日勤及び中勤を担当することとされ、原告井上は松浦勝一(以下「松浦」という。)と共に中勤の指定を受けた。

4 原告井上は、一一月一日、嶋功第二郵便課長(以下「嶋課長」という。)に対し、本件当日につき年休の時季指定をした(以下「本件時季指定」という。)。これに対し、嶋課長は、同日八日、業務支障を理由として時季変更権を行使し(以下「本件時季変更権の行使」という。)、平成三年一月中旬以降に年休を付与する予定である旨通知した。

5 原告井上は、本件当日出勤しなかった。

6 被告は、一二月一八日を支払日とする原告井上の同月分の給与から本件当日の一日分に相当する一万三六四八円及び同月一〇日を支払日とする平成二年の年末手当から右一日分に相当する一五三〇円、以上合計一万五一七八円を差し引くとともに、本件当日同原告が欠勤したことを理由として、一二月一三日、郵政部内職員訓告規程に基づき、同原告を訓告に付した(以下「本件訓告」という。)

二  主たる争点

1 本件時季変更権の行使の適否

2 本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否

3 原告井上の請求金額の当否

三  当事者の主張の骨子

1 争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

(一) 被告

本件時季変更権の行使は、原告井上に年休を付与すれば業務の正常な運営に支障が生じることが予想されたためにしたものであり、次に述べるとおり適法である。

(1) 特殊係では、祝日は、休みの企業が多く窓口に差し出される書留郵便物も少なくなるため、日勤一名、中勤一ないし二名、一六時間勤務二名、一六時間勤務の宿明け数名を配置しているが、配達業務を行う祝日については、持ち戻り郵便物の処理作業があり、かつ差立便の関係で、差立作業について時間的制約を受けることから、中勤には原則として二名を配置して対応していた。そして、本件当日は、配達業務を行う祝日、特に当年限りの祝日とされた日であったことから、一般の祝日には休むような企業でも必ずしも休むとは限らず、書留郵便物は他の祝日より多くなることが予想され、また、本件当日に原告井上とともに中勤に指定された松浦は、特殊係の経験が浅く、かつ祝日勤務の経験がなかったので、仮に同原告に年休を付与して中勤が松浦一人となった場合は、円滑な業務運営に支障を来すことは明らかであった。したがって、本件当日特殊係において勤務の指定を受けた日勤一名及び中勤二名という人員は、配達業務を行う祝日の日中の業務運営に必要な最低配置人員であり、原告井上に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であった。

(2) 原告井上の代替勤務者として考えられるのは、特殊係に所属し、本件当時出勤の指定を受けていなかった職員である。ところが、第二郵便課では、祝日に勤務の指定を受けた職員が年休を取得して要員不足を生じ、その日が休日又は週休日の指定の職員に対し、勤務の指定を変更の上出勤を命じるといったことは、年休取得者が年休の時季指定に際し社会通念上やむを得ない事由を申し出た場合を除き、行わないことが職場慣行として確立していた。しかるに、原告井上は、本件時季指定に際し、年休を必要とする特段の事由について何ら申し出なかった。したがって、原告井上の代替勤務者を確保することは困難であり、同原告が出勤しなければ、最低配置人員を欠き、業務の正常な運営に支障が生じることが予想される状況にあった。

(二) 原告井上

本件時季変更権の行使は、「即位の礼」反対集会に参加させまいとする政治的意図の下に、次に述べるとおり代替勤務者を確保しなくても業務の運営に何ら支障は生じないにもかかわらず、年休付与のための配慮をせずにされたものであり、違法無効である。

(1) 被告は、特殊係の祝日の日中における業務運営には、中勤として最低二名が必要である旨主張するが、月曜日の祝日については、従前から中勤には一名しか配置されていない。

(2) 被告は、松浦は特殊係の経験が浅く、かつ祝日勤務の経験がなかったので、仮に原告井上に年休を付与して中勤が松浦一人となった場合は、円滑な業務運営に支障を来すことは明らかであった旨主張するが、祝日といえども作業内容は平日と何ら変わるものではなく、まして松浦は特殊係に配置されてから既に七か月余りを経過しており、基本的勤務はすべて経験していたのであり、支障があるとは考えられない。また、中勤が松浦のみとなった場合でも、日勤の終業時刻(一七時三四分)及び一六時間勤務の始業時刻(一六時一二分)との関係で、常時二名ないし四名が作業をしているのであるから、何ら不都合なことはない。

(3) 被告は、本件当日は、当年限りの祝日とされた日であったことから、一般の祝日に比べ取扱事務量の増加が予測された旨主張するが、当時の日本全体の自粛ムードからするならば、休まないで営業するという企業が多数あるなどということはあり得ないことであり、極端に取扱事務量が増加することは予想し得ないことであった。

2 争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

(一) 原告井上

本件時季変更権の行使及び本件訓告は、いずれも労基法三九条の趣旨に反するものであり、不法行為を構成する。原告別府は、被告の右不法行為により、著しい精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価するならば、五〇万円を下らない。

(二) 被告

争う。

3 争点3(原告井上の請求金額の当否)について

(一) 原告井上

原告別府は被告に対し、一二月分の給与及び平成二年の年末手当のうち、それぞれ本件当日の一日分に相当する未払賃金、これと同額の附加金、不法行為による慰謝料の一部として五〇万円、並びにこれらに対する各遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

争う。

(原告高橋関係)

一  争いのない事実

1 原告高橋は、平成二年当時、新宿郵便局第二集配課(配置人員 課長一名、内務職二名、外務職五九名(うち上席課長代理、課長代理各一名、その他職員五七名))に勤務し、外務職として郵便物の配達業務に従事していた。

2 第二集配課には第五班から第九班までの五つの班があり、外務職の上席課長代理及び課長代理各一名を除く職員五七名はいずれかの班に所属していた。各班の配達区画はあらかじめ決められており、各職員の担当区画は、日々作成される担務指定表によって指定される仕組みになっていた。

原告高橋は第七班(班長以下一一名)に所属していたが、同班の受持配達区画は、通常郵便物の配達を行う通配区が五区画、大口郵便物の配達を行う大口区が二区画、速達郵便物の配達を行う速配区が一区画、以上合計八区画であった。

3 一一月二三日(以下「本件当日」という。)は、配達業務を行う祝日であり、第七班では、原告高橋(通配第二二八区担当)を含む八名が出勤の指定を受け、残る三名のうち一名が非番日、二名が休日の指定を受けていた。

4 原告高橋は、一一月一九日、藤野正一第二集配課長(以下「藤野課長」という。)に対し、本件当日につき年休の時季指定をした(以下「本件時季指定」という。)。これに対し、藤野課長は、同月二一日、業務支障を理由として時季変更権を行使し(以下「本件時季変更権の行使」という。)、一二月上旬に年休を付与する予定である旨通知した。

5 原告高橋は、本件当日出勤しなかった。

6 被告は、一二月一八日を支払日とする原告高橋の同月分の給与から本件当日の一日分に相当する一万二〇三二円及び同月一〇日を支払日とする平成二年の年末手当から右一日分に相当する一五〇四円、以上合計一万三五三六円を差し引くとともに、本件当日同原告が欠勤したことを理由として、一二月一三日、郵便部内職員訓告規程に基づき、同原告を訓告に付した(以下「本件訓告」という。)

二  主たる争点

1 本件時季変更権の行使の適否

2 本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否

3 原告高橋の請求金額の当否

三  当事者の主張の骨子

1 争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

(一) 被告

本件時季変更権の行使は、原告高橋に年休を付与すれば業務の正常な運営に支障が生じることが予想されたためにしたものであり、次に述べるとおり適法である。

(1) 第二集配課では、配達業務のある日については、原則として配達区画一区画につき一名の担当者を配置していた。したがって、原告高橋の所属する第七班(受持配達区画は八区画)において、本件当日出勤の指定を受けた八名という人員は、配達業務の運営に必要な最低配置人員であり、原告高橋に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であった。

(2) 代替勤務者としての適格性を有するのは、その担当区画に精通している職員に限られるから、原告高橋の代替勤務者として考えられるのは、同原告と同じ第七班に所属し、本件当日について非番日又は休日の指定を受けていた三名だけである。ところが、非番日に指定された職員は、同原告が担当することとされていた通配第二二八区については未経験である上、祝日に非番日の指定を受けた職員については、休んでいても祝日給が支給されることから、勤務の指定を変更してこのような職員を代替勤務者として出勤されることは困難であり、祝日に年休を付与するために非番日を変更してまで出勤を命ずるような取扱いは従前行っていなかった。また、休日の指定を受けた二名においては、それぞれ既に計画していた所用等があった。したがって、原告高橋の代替勤務者を確保することは不可能であり、同原告が出勤しなければ、その担当区画(通配第二二八区)が担当者不在の配達区(以下「欠区」ともいう。)となって業務の正常な運営に支障が生じることが予想される状況にあった。

(3) 原告高橋は、第二集配課では、従来から、最低配置人員しか配置されていない日に、勤務の指定により勤務予定の職員が年休を取得して欠区が生じる場合でも、様々な方策を講じて年休を付与してきたのであり、本件当日についても、代替勤務者を確保することは必ずしも必要ではなかった旨主張する。確かに、通配区に欠区が生じるような場合でも、原告高橋の主張するような対応策を講じることによって年休を付与した例がなくはないが、それは一般的な取扱いではない。

(二) 原告高橋

本件時季変更権の行使は、「大嘗祭」反対集会に参加させまいとする政治的意図の下に、次に述べるとおり年休付与のための配慮をせずにされたものであり、違法無効である。

(1) 被告は、配達業務を運営するには、一区画に一名の担当者を配置することが必要であるとして、原告高橋に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であった旨主張する。確かに、年休付与に当たって代替勤務者を確保できることが望ましいことはいうまでもないが、代替勤務者が確保できない限り年休は認めないというのでは、およそ年休は取れなくなってしまう。そこで、第二集配課では、従来から、各班の受持区画数に等しい数の人員しか配置されていない日に、勤務の指定により勤務予定の職員が年休の時季指定をして欠区が生じる場合でも、次に述べるような措置を講じて年休を付与してきた。すなわち、年休の時季指定をした職員の担当区が大口区又は速配区である場合は、当該大口区又は速配区を取りあえず欠区とし、当該職員の担当区が通配区である場合は、大口区又は速配区の担当者に当該通配区を担当させ、当該大口区又は速配区を取りあえず欠区とし、このようにして欠区とした大口区又は速配区の郵便物については、他の配達区画の担当者で分担して、本来の担当区の郵便物と一緒に配達させる、といった措置を講じて年休を付与してきたのであり、本件当日についても、大口第一〇区を欠区とし、同区の郵便物を他の配達区画の担当者で分担して配達させれば、原告高橋に年休を付与することはできたのであり、代替勤務者を確保することは必ずしも必要ではなかった。

(2) 仮に、代替勤務者を確保することが必要だとしても、被告が主張するように同じ班の職員である必要はなく、他の班から代替勤務者を確保することによって対応できたはずである。

(3) また、勤務の指定の変更により非番日の交換を行うことも可能であった。すなわち、本件当日非番日の指定を受けていた池原と原告高橋が非番日を交換し、本件当日は池原が出勤して原告高橋が非番を取り、同原告が非番日として指定された日は同原告が出勤して池原が非番を取るという方法である。

(4) さらに、勤務の指定上、原告高橋については、本件当日を休日に指定することも可能であった。

2 争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

(一) 原告高橋

本件時季変更権の行使及び本件訓告は、いずれも労基法三九条の趣旨に反するものであり、不法行為を構成する。原告高橋は、被告の右不法行為により、著しい精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価するならば、五〇万円を下らない。

(二) 被告

争う。

3 争点3(原告高橋の請求金額の当否)について

(一) 原告高橋

原告高橋は被告に対し、一二月分給与及び平成二年の年末手当のうち、それぞれ本件当日の一日分に相当する未払賃金、これと同額の附加金、不法行為による慰謝料の一部として五〇万円、並びにこれらに対する各遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

争う

(原告石田関係)

一  争いのない事実

1 原告石田は、小金井郵便局集配課(配置人員 課長一名、副課長一名、内務職二名、外務職六〇名(うち課長代理三名、その他職員五七名))に勤務し、外務職として郵便物の配達業務に従事していた。

2 集配課には第一班から第七班までの七つの班があり、外務職の課長代理三名を除く職員五七名はいずれかの班に所属していた。各班の配達区画はあらかじめ決められており、各職員の担当区画は、日々作成される担務指定表によって指定される仕組みになっていた。

原告石田は第一班(班長以下八名)に所属していたが、同班の受持配達区画は、通所郵便物の配達を行う通配区が五区画、速達郵便物、小包郵便物等の配達を行う混合配達区が一区画、以上合計六区画であった。

3 一一月一二日(以下「本件当日①」という。)、二三日(以下「本件当日②」という。)の両日は、いずれも配達業務を行う祝日であり、第一班では、本件当日①は、原告石田を含む七名が出勤の指定を受け、残りの一名が非番日の指定を受けており、本件当日②は、原告石田を含む六名が出勤の指定を受け、残りの一名が非番日、一名が休日の指定を受けていた。

4 原告石田は、一一月一〇日、五十嵐晴雄集配課長(以下「五十嵐課長」という。)に対し、本件当日①につき年休の時季指定をした(以下「本件時季指定①」という。)。これに対し、五十嵐課長は、業務支障を理由として時季変更権を行使し(以下「本件時季変更権の行使①」という。)、一二月上旬に年休を付与する予定である旨通知した。

5 原告石田は、一一月二一日、五十嵐課長に対し、本件当日②につき年休の時季指定をした(以下「本件時季指定②」という。)。これに対し、五十嵐課長は、業務支障を理由として時季変更権を行使し(以下「本件時季変更権の行使②」という。)、一一月二七日に年休を付与する予定である旨通知した。

6 原告石田は、本件当日①及び同②の両日とも出勤しなかった。

7 被告は、一二月一八日を支払日とする原告石田の同月分の給与から本件当日①及び同②の二日分に相当する二万五六一六円(一日分一万二八〇八円)及び同月一〇日を支払日とする平成二年の年末手当から右二日分に相当する二八六三円(一日分一四三二円)、以上合計二万八四七九円(一日分合計一万四二四〇円)を差し引くとともに、右両日同原告が欠勤したことを理由として、一二月一五日、郵政部内職員訓告規程に基づき、同原告を訓告に付した(以下「本件訓告」という。)

二  主たる争点

1 本件時季変更権の行使①の適否

2 本件時季変更権の行使②の適否

3 本件各時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否

4 原告石田の請求金額の当否

三  当事者の主張の骨子

1 争点1(本件時季変更権の行使①の適否)について

(一) 被告

本件時季変更権の行使①は、原告石田に年休を付与すれば業務の正常な運営に支障が生じることが予想されたためにしたものであり、次に述べるとおり適法である。

(1) 一般に、月曜日は、その前日の日曜日が配達業務の休止日となっているため、土曜日及び日曜日の両日に差し出された通常郵便物がすべて月曜日に配達すべき郵便物となることから、他の平日より要配達郵便物が増加する。そのため、集配課では、月曜日は、一区画に一名の担当者のほかに、班ごとに補助者として一名を増配置して、完全配達の体制をとっていた。したがって、原告石田の所属する第一班(受持配達区画は六区画)において、本件当日①に出勤の指定を受けた七名という人員は、月曜日の業務運営に必要な最低配置人員であり、原告石田に年休を付与するためには、出勤の指定を受けていない職員の中から代替勤務者を確保することが不可欠であった。

(2) 代替勤務者としての適格性を有するのは、その担当区画に精通している職員に限られるから、原告石田の代替勤務者として考えられるのは、同原告と同じ第一班に所属し、本件当日①について非番日の指定を受けていた一名だけである。ところが、祝日に非番日の指定を受けた職員については、休んでいても祝日給が支給されることから、勤務の指定を変更してこのような職員を代替勤務者として出勤させることは困難であり、祝日に年休を付与するために非番日を変更してまで出勤を命ずるような取扱いは従前行っていなかった。したがって、原告石田の代替勤務者を確保することは不可能であり、同原告が出勤しなければ、その担当区画(通配第四区)が担当者不在の配達区(欠区)となって業務の正常な運営に支障が生じることが予想される状況にあった。

(3) 原告石田は、集配課では、従前から、月曜日に年休の時季指定があった場合には、補助者として配置されていた職員を代替勤務者として年休を付与してきたのであり、本件当日についても、代替勤務者を確保することは必ずしも必要ではなかった旨主張する。確かに、原告石田の主張するような方法で年休を付与した例がなくはないが、それは一般的な取扱いではない。

(二) 原告石田

(1) 本件時季変更権の行使①は、次に述べるとおり代替勤務者を確保しなくても業務の運営に何ら支障は生じないのにされたものであり、違法無効である。

すなわち、被告は、月曜日の配達業務を運営するには、一区画に一名の担当者のほかに、班ごとに補助者として一名を増配置することが必要であるとして、原告石田に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であった旨主張する。しかし、集配課では、従前から、月曜日に年休の時季指定があった場合には、補助者として配置された職員を代替勤務者として(この結果、補助者はいないことになる。)年休を付与してきたのであり、本件当日①についても、補助者として配置されていた職員に通配第四区を担当させれば、原告石田に年休を付与することはできたのであり、その他から代替勤務者を確保することは、必ずしも必要ではなかった。

(2) 本件時季変更権の行使①は、原告石田を「即位の礼」反対集会に参加させまいとする政治的意図の下に、職場の慣行に反して同原告の希望と異なる勤務の指定をすることによって、勤務指定表作成の段階から仕組まれたものであるから、仮に、同原告に年休を与えることによって業務に何らかの支障が発生するとしても、時季変更権を行使することは許されず、本件時季変更権の行使①は違法無効である。

2 争点2(本件時季変更権の行使②の適否)について

(一) 被告

本件時季変更権の行使②は、原告石田に年休を付与すれば業務の正常な運営に支障が生じることが予想されたためにしたものであり、次に述べるとおり適法である。

(1) 集配課では、配達業務を行う日については、原則として、配達区画一区画につき一名の担当者を配置していた。したがって、原告石田の所属する第一班において、本件当日②に出勤の指定を受けた六名という人員は、配達業務の運営に必要な最低配置人員であり、原告石田に年休を付与するためには、代替勤務者を確保することが不可欠であった。

(2) 原告石田の代替勤務者として考えられるのは、原告石田と同じ集配課第一班に所属し、本件当日②について非番日又は休日の指定を受けていた二名だけである。しかし、前記(1の(一)の(2))のとおり、集配課において、祝日に年休を付与するために非番日を変更してまで出勤を命ずるような取扱いは従前行っていなかった。また、休日の指定を受けていた関塚幸平(以下「関塚」という。)については、既に計画していた所用等があった。したがって、原告石田の代替勤務者を確保することは不可能であり、同原告が出勤しなければ、その担当区画(通配第一区)が担当者不在の配達区(欠区)となって業務の正常な運営に支障が生じることが予想される状況にあった。

(3) 原告石田は、関塚を代替勤務者として配置することが可能であった旨主張するが、一一月二一日に五十嵐課長が関塚に本件当日②の出勤が可能かどうかを尋ねたところ、関塚は用事があって出勤できないと答えたのであるから、原告石田の右主張は失当である。

(二) 原告石田

本件時季変更権の行使②は、「大嘗祭」反対集会に出席させまいとする政治的意図の下に、代替勤務者の確保が可能であったにもかかわらず、年休付与のための配慮をせずにされたものであり、違法無効である。

すなわち、原告石田は、「大嘗祭」反対集会に参加するため本件当日②は休日指定を希望していたので、本件当日②について出勤の指定がされていることを知った後、一一月七日ころ、本件当日②について休日の指定を受けていた関塚から勤務の交替について了解を得た。そして、同月一〇日ころ、五十嵐課長に対し、本件当日②は、休日に指定されている関塚を自分の代わりに出勤させ、自分については休日指定に変更してもらいたい旨申し入れており、かつ関塚が同原告の職務を代行することに支障はなかったのであるから、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務の指定を変更して関塚を代替勤務者として配置することが客観的に可能な状況であったことは明らかである。

3 争点3(本件各時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

(一) 原告石田

本件各時季変更権の行使及び本件訓告は、いずれも労基法三九条の趣旨に反するものであり、不法行為を構成する。原告石田は、被告の右不法行為により、著しい精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価するならば、五〇万円を下らない。

(二) 被告

争う。

4 争点4(原告石田の請求金額の当否)について

(一) 原告石田

原告石田は被告に対し、一二月分の給与及び平成二年の年末手当のうち、それぞれ本件当日①及び同②の二日分に相当する未払賃金、これと同額の附加金、不法行為による慰謝料の一部として五〇万円、並びにこれらに対する各遅延損害金の支払を求める

(二)被告

争う。

第三  争点に対する判断

(原告土山関係)

一  争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

1 前記争いのない事実、証拠(甲A一四ないし一六、二一、二五、原告土山本人)及び弁論の全趣旨によれば、勤務の指定の変更は、本来、業務上の事由がある場合に行われるものであるが、第一国際郵便課では、職員から勤務の指定の変更の申し出があった場合であっても、それが別の職員との勤務の交替によるものであり、相対の職員間の合意があれば、できる限りこれを認める方向で運用されていたこと、原告土山は、かねてより、本件当日は休む予定であったため、一〇月二九日昼ころ、本件当日について出勤の指定がされていることを知り、本件当日につき休日の指定を受けていた越塚に勤務の交替を依頼し、その了解を得たこと、そこで、同日午後一時ころ、川口課長に対し、本件当日については、越塚から勤務を交替することについて了解を得ているので、越塚を自分の代わりに出勤させ、自分については休日の指定をしてもらいたい旨、勤務の指定の変更を申し入れたが、同課長がこれを認めなかったので本件時季指定をしたこと、越塚は到着係において原告土山が所属するチームのチームリーダーであり、原告土山の職務を代行することについて支障はなかったこと、以上の事実が認められる。

被告は、時季変更権を行使した一一月八日の時点では、原告土山はいまだ代替勤務者の具体的な名前を明らかにしていなかった旨主張し、証人川口勝の証言にはこれに沿う部分があるが、右部分は、前掲証拠に照らし、採用することができない。

また、被告は、一一月九日に越塚に本件当日の人員の増配置のための出勤を要請した際、同人は用事があると言ってこれを拒否したとして、代替勤務を事前に了解していたことには疑問があるとも主張し、乙A第八号証には、今井義雄副課長が越塚に対し、一一月九日午後、三度にわたって本件当日の出勤を要請したが、越塚は用事があって出勤できないとして、ことごとく右要請を拒否した旨、右主張に沿う部分がある。しかし、証拠(甲A一四、一五、原告土山本人)及び弁論の全趣旨によれば、当時、越塚は、海老原重義上席課長代理から「越さんは一二日には出られるんだって」と言われ、暗に本件当日の出勤を打診されたことはあるが、川口課長や右副課長から直接出勤を要請されたことはないこと、越塚は、右上席課長代理の打診に対して、「土山との交替だったら出てもよいが、そうでなければ休むよ」と答えたことが認められ、これらの事実に照らすと、乙A第八号証の前記部分も、原告土山が本件当日の代替勤務者として事前に越塚の了解を得ていたとの前記認定を左右するものではない。

2  ところで、労基法三九条四項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者の確保の難易は、その判断の一要素であって、特に、勤務割による勤務体制(本件のような勤務の指定による勤務体制もこれに含まれる。)が採られている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。このような勤務体制が採られている事業場において、勤務割における勤務予定日につき年休の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできない(最高裁昭和六二年七月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻五号一二二九頁、最高裁昭和六二年九月二二月第三小法廷判決・裁判集民事一五一号六五七頁、最高裁平成元年七月四日第三小法廷判決・民集四三巻七号七六七頁参照)。

3  右の見地に立って、本件時季変更権の行使の適否について検討すると、前記認定の事実によれば、本件当日の勤務につき越塚は原告土山の代替勤務を了解しており、かつ、越塚が同原告の職務を代行することに支障はなかったのであるから、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務の指定を変更して越塚を原告土山の代替勤務者として配置することが客観的に可能な状況にあったことは明らかである。それにもかかわらず、川口課長は、以上の措置を採らないまま、業務に支障が生じることを理由として、原告土山に対し時季変更権を行使したというのであるから、本件時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないのにされた違法なものとして、無効といわなければならない。

被告は、増配置のための出勤要請は拒否するが、年休のための代替勤務者としてなら出勤するというような職員がいることまで予測することは、使用者としての通常の配慮を超えていると主張する。しかし、原告土山は、一〇月二九日本件当日の勤務の指定の変更を申し入れた際、越塚から代替勤務の了解を得ている旨川口課長に伝えたことは前記判示のとおりであって、使用者としての通常の配慮をすれば、越塚の勤務の指定を変更して代替勤務者として配置することが客観的に可能な状況にあったことは否定できないから、時季変更権を行使した後に越塚が増配置のための出勤要請を拒否したことを理由として、右の配慮を欠いたことを正当化することはできない。

二  争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

右に判示したとおり、本件時季変更権の行使は無効であり、本件時季指定によって本件当日における就労義務は消滅したものであるから、本件当日の欠勤を理由とする本件訓告は、その前提を欠く違法な行為というべきである。そして、前記一の事実関係及び判示内容に照らすと、右違法な行為をするにつき少なくとも過失があったことを認めることができるから、本件訓告は不法行為を構成するものといわざるを得ない。そして、本件に顕れた諸般の事情を斟酌すれば、本件訓告により原告土山が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、五万円をもって相当と認める。

なお、原告土山は、本件時季変更権の行使自体をも不法行為として主張するが、仮に同原告がこれによって精神的苦痛を被ったとしても、現実に休暇を取るという目的を達した事実等をも考慮すると、それは、本件訴訟において未払賃金の支払が命じられることによって慰謝され得る程度のものと認められ、同原告がそれ以上の精神的苦痛を受けたとの事情を認めるには足りない。

三  争点3(原告土山の請求金額の当否)について

以上のとおりであるから、原告土山の本件請求は、被告に対して

(一) 未払賃金一万二七五七円及び内金一三三三円に対する弁済期の翌日である平成二年一二月一一日から、内金一万一四二四円に対する弁済期の翌日である同月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二) 附加金一万二七五七円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(三) 慰謝料五万円及びこれに対する不法行為の日である平成二年一二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

の各支払を求める限度において理由があり、その余は理由がない。

(原告別府関係)

一  争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

1 まず、差立係における祝日の業務の運営に必要な配置人員について、証拠(乙A一、証人前川一誠、原告別府本人)及び弁論の全趣旨によれば、月曜日の祝日については、船便小包郵便物の差立業務はなく、専らSAL小包郵便物の差立業務のみを行うことから、二四名中八名の職員(うち一名は課長代理)を配置してこれに対応していたこと、右八名については、平常時は日勤として配置しているが、年末年始の繁忙期間中(一〇月一日から一月一四日までの間)に限っては、昼間の作業を円滑に行うために、夜間に到着する郵便物の開披作業を行う要員として一六時間勤務(いわゆる宿直)一名を配置し、その余の七名を日勤として配置していたこと、右七名のうち、課長代理は、祝日の業務の責任者であり、差立作業に直接従事することは予定されておらず、残りの六名が三名一組となって差立作業に当たる体制になっていたことが認められ、右認定事実と証拠(証人前川一誠)を併せ考えれば、月曜日の祝日における差立係の業務運営には、最低八名(日勤としては最低七名)の人員を配置する必要があったことが認められる。

したがって、本件当日に原告別府を含む七名が日勤の指定を受けていた差立係において、同原告に年休を与え、かつその業務の正常な運営を図るためには、代替勤務者を確保することが不可欠であったというべきである。

2  そこで、代替勤務者を確保することが可能であったかどうかを検討すると、前記争いのない事実、証拠(甲B一、証人前川一誠、原告別府本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告別府は、本件時季指定に際し、勤務を交替してくれる者がいる旨前川課長に伝えたが、その氏名は明らかにしなかったこと、第二国際郵便課では、係ごとに担当業務を異にしているため、ある係で要員が不足した場合は同一係内で対処し、係を超えて応援要員を出すような体制にはなっていなかったこと、本件当日において、差立係では、最低配置人員である八名(日勤七名、一六時間勤務一名)が出勤の指定を受け、残りの職員は休日(一二名)、週休日(一名)及び非番日(三名)の指定を受けていたこと、差立係の職員については、日曜日は原則として週休日となっているため、本件当日出勤の指定を受けなかった右一六名については、月曜日である本件当日は二連休の二日目に当たっていたこと、差立係では、従来、祝日に年休の時季指定がされた例はなく、このため祝日に勤務の指定を受けた職員が年休を取得して要員不足を生じ、その日が休日、週休日又は非番日の予定の職員に対し、勤務の指定を変更の上出勤を命じるといったことはかつてなかったこと、以上の事実が認められる。

右に認定した事実によれば、原告別府の代替勤務の候補者としては、同原告と同じ差立係の職員で、本件当日につき休日、週休日又は非番日の指定を受けた者が考えられるが、これらの職員の勤務の指定を変更して出勤を命ずることは相当困難であって、使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務の指定を変更することが客観的に可能な状況になかったものというのが相当である。

原告別府は、本件時季指定に先立ち、交替要員を用意してその旨前川課長に伝えているのであるから、同原告において右交替要員の氏名を明らかにしなくても、その氏名を確認することは一挙手一投足で足り、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保することはできたはずである旨主張し、原告別府本人も、一一月上旬に同じチームの佐藤繁明(以下「佐藤」という。)から本件当日の交替要員としての了解を得た旨供述する。しかし、右供述を裏付けるに足りる的確な証拠はない上、証拠(甲B2)によれば、原告別府は、一一月六日に前川課長に対し、本件当日の勤務の指定の変更を申し入れた際、交替要員がいる旨申し出てはいるものの、真実、同原告において事前に佐藤から交替要員としての了解を得ていたのであれば、前川課長にその名前を明らかにするのが自然であり、かつそれを妨げるような事情もうかがえないのに、これを一切明らかにしていないこと、証拠(乙B七の1、2)によれば、同月九日に東京国際郵便局内の原告別府も所属する労働組合の役員が原告別府と原告土山の本件当日の勤務の指定について労務担当者に申入れを行った際、原告土山については、交替要員として越塚の名前を挙げているのに対し、原告別府については、交替要員の氏名を挙げていないこと、証拠(甲B三)によれば、同月一〇日に原告別府が前川課長に本件当日の勤務の指定の変更を再度申し入れた際にも、同月六日の場合と同様、同原告において佐藤の名前を明らかにすることを妨げるような事情もうかがえないのに、交替要員がいる旨繰り返すだけでその名前を一向に明らかにしていないことがそれぞれ認められるから、以上の諸事情を併せ考えると、佐藤から本件当日の交替要員としての了解を事前に得ていた旨の原告別府本人の前記供述は採用できないものといわざるを得ない。そうすると、原告別府において交替要員を用意したことを前提として、被告において右交替要員の氏名を確認することは使用者としての通常の配慮であるとする、原告別府の右主張は理由がない。

3 以上によれば、原告別府に年休を与えることは、被告の事業の正常な運営を妨げることになるというべきであるから、本件時季変更権の行使は違法なものと解するのが相当である。

二  争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

右に判示したとおり、本件時季変更権の行使は違法なものであり、また、前記争いのない事実によれば、原告別府について一二月一三日に欠務があったことは明らかであるから、本件当日の欠勤及び一二月一三日の欠務を理由とする本件訓告にも違法はなく、本件時季変更権の行使及び本件訓告のいずれも不法行為を構成するものとはいえない。

三  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告別府の本件請求はいずれも理由がない。

(原告井上関係)

一  本件時季変更権の行使の適否(争点1)について

1 まず、特殊係における本件当日の業務の運営に必要な配置人員について、証拠(乙C八、証人嶋功、原告井上本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 特殊係における日中(日勤及び中勤の勤務時間帯)の要員の配置状況については、平日の場合、日勤が二名、中勤が五名であったのに対し、祝日の場合は、窓口での郵便物の受付業務が午前九時から午後零時三〇分までに限られていること及び休みの企業が多いことなどから、平日に比べて窓口で受け付ける書留郵便物の量が少なくなるため、日勤については一名を、中勤については、当日見込まれる業務量のいかんによって一ないし二名を配置していた。そして配達業務を行う祝日については、配達業務のない祝日にはない持ち戻り書留郵便物の処理作業があり、差立作業についても時間的制約を受けることなどから、中勤については原則として二名を配置して対応していた。

(二) 個々の職員の具体的な作業方法については、平日の場合は、多数の職員が配置されることから、分業体制が採られており、職員は細分化された個々の作業のみを処理すれば足りるのに対し、祝日の場合は、全体の作業量自体は多くはないものの、配置人員が少ないことから、業務全般について、その流れを理解した上で作業手順を踏まえて処理することが必要であり、個々の作業がひととおりできるというだけでは不十分であった。

(三) 本件当日の勤務の指定について、嶋課長は、日勤は、事務引継ぎ等のため森谷主任を指定し、中勤には、松浦及び原告井上を指定した。すなわち、本件当日は配達業務を行う祝日であったが、当年限りの祝日のため、休みの企業の数が一般の祝日並みかどうかが必ずしも明らかではなく、窓口で受け付ける書留郵便物の量がどの程度になるのか、その動向を予想しにくい状況にあった。そこで、嶋課長は、中勤には原則どおり二名を配置することとし、ただし、うち一名には祝日勤務の経験の浅い松浦を指定し、他の一名には、業務知識の豊富なベテランである原告井上を配置することとした。

以上の事実が認められ、右認定事実と証拠(証人嶋功)を併せ考えれば、本件当日における特殊係の業務運営には、中勤として最低二名の人員を配置する必要があったことが認められる。

したがって、本件当日に原告井上を含む二名が中勤の指定を受けていた特殊係において、同原告に年休を与え、かつその業務の正常な運営を図るためには、代替勤務者を確保することが不可欠であったというべできある。

2  そこで、代替勤務者を確保することが可能であったかどうかを検討すると、前記争いのない事実、証拠(乙C三、証人嶋功、原告井上本人)及び弁論の全趣旨によれば、第二郵便課では、係ごとに担当業務を異にしているため、ある係で要員が不足した場合は同一係内で対処し、係を超えて応援要員を出すような体制にはなっていなかったこと、本件当日において、特殊係では、中勤二名のほかに、日勤として一名、一六時間勤務として二名、一六時間勤務の宿明けとして二名が出勤の指定を受け、残りの職員は、休日又は週休日の指定を受けていたこと、第二郵便課では、祝日に勤務の指定を受けた職員が年休を取得して要員不足を生じ、その日が休日又は週休日の指定の職員に対し、勤務の指定を変更の上出勤を命じるといったことは、年休の時季指定に際し、当該職員からやむを得ない事由の申し出があったような場合を除き、行っていなかったこと、原告井上は、本件時季指定に際し、年休を必要とする事由について何ら申し出をしなかったこと、以上の事実が認められる。

右に認定した事実によれば、原告井上の代替勤務の候補者としては、同原告と同じ特殊係の職員で、本件当日につき休日又は週休日の指定を受けた者が考えられるが、これらの職員の勤務の指定を変更して出勤を命ずることは相当困難であって、使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務の指定を変更することが客観的に可能な状況になかったものというのが相当である。

3 以上によれば、原告井上に年休を与えることは、被告の事業の正常な運営を妨げることになるというべきであるから、本件時季変更権の行使は適法なものと解するのが相当である。

二  争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

右に判示したとおり、本件時季変更権の行使は適法なものであるから、本件当日の欠勤を理由とする本件訓告にも違法はなく、本件時季変更権の行使及び本件訓告のいずれも不法行為を構成するものとはいえない。

三  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告井上の本件請求はいずれも理由がない。

(原告高橋関係)

一  争点1(本件時季変更権の行使の適否)について

1 まず、第二集配課の業務の運営に必要な配置人員について、前記争いのない事実、証拠(証人藤野正一、原告高橋本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件当日は配達業務を行う祝日であったこと、配達業務のある日については、原則として配達区画一区画につき一名の担当者を配置していたこと、原告高橋の所属する第七班は配達区画を八区画受け持っていたことが認められ、右認定事実と証拠(証人藤野正一)を併せ考えれば、本件当日の第七班の業務運営には、最低八名の人員を配置する必要があったことが認められる。

原告高橋は、第二集配課では、従来から、各班の受持区画数に等しい人員しか配置されていない日に、勤務の指定を受けた職員が年休の時季指定をして欠区が生じる場合でも、大口区又は速配区を取りあえず欠区とし、欠区とした大口区又は速配区の郵便物については、他の配達区画の担当者で分担して、担当区の郵便物と一緒に配達させるなどの措置を講じて年休を付与してきた旨主張し、証拠(証人藤野正一、原告高橋本人)によれば、原告高橋の主張する右のようなやり繰りをすることによって、欠区の発生に対処した例のあることが認められる。

しかし、証拠(証人藤野正一)及び弁論の全趣旨によれば、欠区の発生に対するこのような対処の方法は、予想される当日の取扱業務量に比較して、非常勤職員の確保が可能であるなど要員事情に余裕があって、業務運営上問題がないと見込まれる場合とか、欠区したままでは業務運営上支障が生じることが予想されるが、風邪による発熱等の社会通念上やむを得ない事由の申し出を伴う年休の時季指定であるために、被告において時季変更権の行使を差し控えるなど、特段の事情がある場合における例外的な取扱いであることが認められる。ところが、証拠(証人藤野正一)及び弁論の全趣旨によれば、金曜日の祝日である本件当日は、三連休の初日となるため、土曜日が休みとなる企業等から木曜日に差し出される郵便物の増加が予想され、その大半が本件当日の要配達郵便物となり、本件当日の取扱業務量は平常日よりも相当増加することが見込まれていたこと、本件当日は非常勤職員の確保が可能であるなどの余裕のある要員事情にはなかったことが認められ、これによれば、欠区に対する要員上の手当をしなければ、業務に支障が生じるごとが十分に予想される状況にあったことは明らかである。それにもかかわらず、本件時季指定について、欠区に対する手当をしないままで年休を付与するという例外的取扱いをすべき特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件当日に原告高橋を含む八名が出勤の指定を受けていた第七班において、同原告に年休を与え、かつその業務の正常な運営を図るためには、出勤の指定を受けていない職員の中から代替勤務者を確保することが不可欠であったというべきである。

2  そこで、代替勤務者を確保することが可能であったかどうかを検討すると、前記争いのない事実、証拠(乙D六、証人藤野正一)及び弁論の全趣旨によれば、配達業務は、担当する配達区画の郵便物をあらかじめ定められた効率的な順路に従い、一通一通戸別に組立てをした上で順次配達を行うというもので、業務の円滑な遂行のためには当該区画に精通していることが必要であることから、ある配達区画の担当者が不在となる場合の代替勤務者は、専ら同じ班の職員で賄われていたこと、本件当日において、第七班では、最低配置人員である八名が出勤の指定を受け、残る三名のうち、二名は休日の指定を受けた麻生善之と加藤満であり、一名は非番日の指定を受けた池原庸一であったこと、ところが、藤野課長が右麻生及び加藤に本件当日の出勤が可能かどうかを確認したところ、両名とも既に計画していた所用等があり出勤できないとの返答であったこと、また、新宿郵便局における集配各課では、祝日については、各班の受持配達区画の数に等しい要員しか配置されないのが通例であり、勤務の指定を受けた職員が年休を取得すれば、勤務を予定していなかった職員を代替勤務者として出勤させなくてはならなくなることを職員自身が認識しているため、従前、祝日に年休の時季指定がされた例はないこと、このため、祝日に勤務の指定を受けた職員が年休を取得して要員不足を生じ、その日が非番日の指定の職員に対し、勤務の指定を変更の上出勤が命じられるといったことはなかったこと、祝日に非番日の指定を受けた職員には、出勤しなくても八時間勤務したものとして祝日給が支給されることから、このような職員を出勤させることは、職員感情に反する上、祝日に非番日の指定を受けた職員が出勤した場合には、祝日給及びこれと同様の方法により算出された超過勤務手当の両方を支給しなければならず、予算面において負担となることから、第二集配課では、祝日に突発的な事情により要員が不足する事態に陥った場合であっても(祝日に年休の時季指定がされた例のないことは、前記のとおりである。)、非番日の指定を受けた職員に出勤を命じるといったことは、従前行っていなかったこと、以上の事実が認められる。

右に認定した事実によれば、原告高橋の代替勤務の候補者は、配達区画に精通していることが求められることから、同原告と同じ第七班の職員であることを要するところ、本件当日におけるそのような候補者としては、非番日の指定を受けた職員一名及び休日の指定を受けた職員二名が考えられるが、休日の指定を受けた二名については所用があって出勤することができず、また、非番日の指定を受けた職員の勤務の指定を変更して出勤を命ずることは相当困難であり、結局、使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務の指定を変更することが客観的に可能な状況になかったものというのが相当である。

原告高橋は、他の班の職員を代替勤務者にすれば対応できたはずである旨主張し、同原告本人も、過去にも他の班の職員を代替勤務者とした例がある旨、主張に沿う供述をしている。また、証拠(甲D四、五)によれば、第二集配課の職員が自分の属する班とは別の班の受持配達区画の担当を命ぜられた例のあることが認められる。しかし、本件当時、ある配達区画の担当者が不在となる場合の代替勤務者は、専ら同じ班の職員で賄われていたことは、前記認定のとおりであり、証拠(乙D六、証人藤野正一)及び弁論の全趣旨によれば、他の班の職員が年休取得者の代替勤務を命ぜられる例がなくはないものの、それは、一定の班相互間における要員供出計画(職員一人当たりの年休取得可能日数をあらかじめ算出し、要員事情が比較的穏やかな班から厳しい班の速達区又は大口区に対し計画的に要員を供出し、各班間において年休取得日数に不均衡が生じないようにするための制度)に基づく措置である場合のほかは、年休の時季指定をした職員において社会通念上やむを得ず年休を付与せざるを得ない事情があり、かつ当該職員の属する班において代替勤務者を確保することができないような例外的な場合に限られていること、殊に祝日においては、突発的な事情により要員が不足する自体に陥った場合であっても、他の班の職員に応援を命じるといったことは、従前に行っていなかったことが認められる。

これらの事実に照らすと、使用者としての通常の配慮をしたとしても、本件当日について第七班以外の他の班の職員を原告高橋の代替勤務者として確保することは、客観的に可能な状況にあったということはできず、原告高橋の右主張は採用できない。

3 原告高橋は、勤務の指定の変更により非番日の交換を行えば対応可能であったとして、具体的には、池原と原告高橋が非番日を交換し、本件当日は池原が出勤して、同原告が非番を取り、同原告が非番日として指定された日は同原告が出勤して池原が非番をとればよい旨主張し、同原告本人もその旨供述する。しかし、弁論の全趣旨によれば、原告高橋は、一一月一九日本件時季指定をした時点では、既に、本件当日を含む勤務の指定の対象期間(一一月四日から一二月一日までの四週間)内である一一月一二日の祝日に非番日を取得済みであることが認められ、これによれば、右期間内の非番日の交換は事実上不可能といわざるを得ないこと、証拠(原告高橋本人)によれば、原告高橋において池原に対し非番日の交換を申し入れてさえないことが認められることに照らすと、被告において勤務の指定の変更により原告高橋と池原の非番日を交換する措置を採らなかったことを不合理ということはできず、原告高橋の右主張は理由がない。

4 原告高橋は、勤務の指定上、本件当日を休日に指定することも可能であったとも主張する。しかし、証拠(乙D五、証人藤野正一)及び弁論の全趣旨によれば、第二集配課では、日曜日や祝日の勤務の指定に当たっては、職員間の公平を図る見地から、特定の職員に休日の指定を多くしたり、逆に出勤の指定を多くしたりすることのないように配慮していたこと、ところが、原告高橋についでは、他の職員に比べて日曜日又は祝日の出勤が少なかったこと(四月一日から本件当日までの間について、同原告の日曜日の出勤日数は〇日、祝日及び休日の出勤日数は四日に過ぎず、第七班の職員一一名中、池原と並んで最も少ない。)が認められ、本件当日の直近の祝日である一一月一二日に非番日の指定がされたことも併せ考慮すると、本件当日について出勤の指定をしたことを不合理ということはできず、原告高橋の右主張も理由がない。

5 以上によれば、原告高橋に年休を与えることは、被告の事業の正常な運営を妨げることになるというべきであるから、本件時季変更権の行使は適法なものと解するのが相当である。

二  争点2(本件時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

右に判示したとおり、本件時季変更権の行使は適法なものであるから、本件当日の欠勤を理由とする本件訓告にも違法はなく、本件時季変更権の行使及び本件訓告のいずれも不法行為を構成するものとはいえない。

三  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告高橋の本件請求はいずれも理由がない。

(原告石田関係)

一  争点1(本件時季変更権の行使①の適否)について

1 まず、集配課の業務の運営に必要な配置人員について、前記争いのない事実、証拠(証人五十嵐晴雄、原告石田本人)及び弁論の全趣旨によれば、火曜日から土曜日までについては、配達区画一区画につき一名の担当者を配置していたこと、月曜日については、その前日の日曜日が通常郵便物の配達業務の休止日となっているため、要配達郵便物が増加する傾向にあることから、班ごとに補助者として一名を増配置していたこと、原告石田の所属する第一班の受持配達区画は六区画であったことが認められ、右認定事実と証拠(証人五十嵐晴雄)を併せ考えれば、月曜日における第一班の業務運営には、補助者を含めて最低七名の人員を配置する必要があったことが認められる。

原告石田は、集配課では、従前から、月曜日に年休の時季指定があった場合には、補助者として配置された職員を代替勤務者として(この結果、補助者はいないことになる。)年休を付与してきた旨主張する。そして、原告石田本人の供述の中にはこれに沿う部分があり、証拠(甲E二の1ないし4、乙E三の1)によれば、本件当日①のほか、平成三年三月四日、同月一一日、四月八日、六月二二日の各月曜日について、補助者がいない例のあることが認められる。

しかし、証拠(乙一、証人五十嵐晴雄)及び弁論の全趣旨によれば、当時、集配課では、月曜日に補助者を代替勤務者とすることによって年休を付与するようなことは、原則として行っていなかったこと、もっとも、補助者を代替勤務者として年休を付与した例がなくはないものの、それは、非常勤職員を通常時より多めに採用できる年度末等のように、要員事情に余裕があって、補助者とは別に代替勤務者を確保しなくても業務運営上問題がないと見込まれる場合とか。右代替勤務者を確保しなければ業務運営上支障が生じることが予想されるが、風邪による発熱等の社会通念上やむを得ない事由の申し出を伴う年休の時季指定であるために、被告において時季変更権の行使を差し控えるなど、特段の事情がある場合における例外的な取扱いであることが認められる。しかるに、本件当日①については、補助者とは別に代替勤務者を確保しなくても年休を付与するという例外的扱いをすべき特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件当日①(月曜日)に原告石田を含む七名が出勤の指定を受けていた第一班において、同原告に年休を与え、かつその業務の正常な運営を図るためには、出勤の指定を受けていない職員の中から代替勤務者を確保することが不可欠であったというべきである。

2  そこで、代替勤務者を確保することが可能であったかどうかを検討すると、前記争いのない事実、証拠(証人五十嵐晴雄、原告石田本人)及び弁論の全趣旨によれば、配達業務は、担当する配達区画の郵便物をあらかじめ定められた効率的な順路に従い、一通一通戸別に組立てをした上で順次配達を行うというもので、業務の円滑な遂行のためには当該区画に精通していることが必要であることから、ある配達区画の担当者が不在となる場合の代替勤務者は、専ら同じ班の職員で賄われていたこと、本件当日①において、第一班では、最低配置人員である七名が出勤の指定を受け、残る一名は非番日の指定を受けていたこと、ところが、祝日に非番日の指定を受けた職員には、出勤しなくても八時間勤務したものとして祝日給が支給されることから、その指定は各職員に平等に割り当てられるよう年間を通じて班ごとにローテーションを組んで行われており、このローテーションの変更は容易ではなかったこと、また、集配課では、従前、祝日に年休の時季指定がされた例はなく、このため祝日に勤務の指定を受けた職員が年休を取得して要員不足を生じ、その日が非番日の指定の職員に対し、勤務の指定を変更の上出勤が命じられるといったことはなかったこと、以上の事実が認められる。

右に認定した事実によれば、原告石田の代替勤務の候補者は、配達区画に精通していることが求められることから、同原告と同じ第一班の職員であることを要するところ、本件当日①におけるそのような候補者としては、非番日の指定を受けた職員が考えられるが、右職員の勤務の指定を変更して出勤を命ずることは相当困難であって、使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務の指定を変更することが客観的に可能な状況になかったものというのが相当である。

3 原告石田は、本件時季変更権の行使①は、原告石田を「即位の礼」反対集会に参加させまいとする政治的意図の下に、職場の慣行に反して同原告の希望と異なる勤務の指定をすることによって、勤務指定表作成の段階から仕組まれたものである等と主張し、証拠(甲E三、四、証人五十嵐晴雄、原告石田本人)及び弁論の全趣旨によれば、五十嵐課長は、原告石田が、一一月一一日(日曜日)を出勤、一二日(月曜日)を週休日、一三日(火曜日)を非番とする勤務の指定を希望したのに対し、一一月一一日及び一二日の両日についてはいずれも出勤の、一三日については週休日の各勤務の指定をしており、その点で同原告に対する勤務の指定はその希望と一部異なる結果になっていることが認められる。しかしながら、証拠(証人五十嵐晴雄、原告石田本人)及び弁論の全趣旨によれば、集配課における勤務の指定については、日曜日に出勤した職員に対して、翌日の月曜日が祝日である場合には月曜日を週休日に指定せずに、翌々日の火曜日を週休日に指定するというのが当時の通常の取扱いであったこと、前記の勤務の指定は、原告石田の属する第一班の班長が右のような当時の通常の取扱いに従って作成した原案を五十嵐課長がそのまま採用したものであること、当時、勤務の指定に当たり、あらかじめ職員の希望を徴する措置が採られていたが、右の措置は、勤務の指定を円滑に行う上で参考に供するために採られた事実上の措置であって、実際の勤務の指定においてこのような希望が取り入れられない結果となる事例はまれではなかったこと、以上の事実が認められるから、原告石田に対する本件当日①についての前記の勤務の指定を職場の慣行に反する異常な措置ということはできず、この点についての原告石田の主張は、その余の点を検討するまでもなく、失当というべきである。

4 以上によれば、原告石田に年休を与えることは、被告の事業の正常な運営を妨げることになるというべきであるから、本件時季変更権の行使①は適法なものと解するのが相当である。

二  争点2(本件時季変更権の行使②の適否)について

1 前記争いのない事実、証拠(甲E一、四、六、原告石田本人)及び弁論の全趣旨によれば、勤務の指定の変更は、本来、業務上の事由がある場合に行われるものであるが、集配課では、職員から勤務の指定の変更の申し出があった場合であっても、それが同一の班に所属する他の職員との勤務の交替によるものであり、相対の職員間の合意があれば、できる限りこれを認める方向で運用されていたこと、原告石田は、かねてより、本件当日②は休む予定であったことから、一〇月下旬ころ、本件当時②について出勤の指定がされていることを知り、一一月七日、本件当日②につき休日の指定を受けていた同じ第一班に属する関塚に勤務の交替を依頼し、その了解を得たこと、そこで、同月一〇日ころ、五十嵐課長に対し、本件当日②については、関塚から勤務を交替することについて了解を得ているので、関塚を自分の代わりに出勤させ、自分については休日の指定をしてもらいたい旨、勤務の指定の変更を申入れたが、同課長がこれを認めなかったので本件時季指定②をしたこと、関塚は集配課の主任の一人であり、原告石田の職務を代行することについて支障はなかったこと、以上の事実が認められる。

2  そこで、原告土山関係の一の2に判示した見地に立って、本件時季変更権②の適否を検討すると、右認定の事実によれば、本件当日②の勤務につき関塚は原告石田の代替勤務を了解しており、かつ、関塚が同原告の職務を代行することに支障はなかったのであるから、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務の指定を変更して関塚を原告石田の代替勤務者として配置することが客観的に可能な状況にあったことは明らかである。それにもかかわらず、五十嵐課長は、以上の措置を採らないまま、業務に支障が生じることを理由として、原告石田に対し時季変更権を行使したというのであるから、本件時季変更権の行使②は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないのにされた違法なものとして、無効といわなければならない。

被告は、関塚には既に計画していた所要等があった旨主張し、乙E第一〇号証及び証人五十嵐晴雄の証言中には右主張に沿う部分があるが、これらは、原告石田本人の供述に照らすと、いずれも採用することができず、他に被告の右主張を裏付けるに足りる的確な証拠は見当らない。

三  争点3(本件各時季変更権の行使及び本件訓告についての不法行為の成否)について

右に判示したとおり、本件時季変更権の行使①は適法なものであるが、同②は違法はものとして無効であり、本件時季指定②によって本件当日②における就労義務は消滅したものであるから、本件訓告は、同日の欠勤を理由とする点に限り、その前提を欠く違法な行為というべきである。そして、前記二の事実関係及び判示内容に照らすと、右違法な行為をするにつき少なくとも過失があったことを認めることができるから、本件訓告は右の点に限り不法行為を構成するものといわざるを得ない。そして、本件に顕れた諸般の事情を斟酌すれば、本件訓告により原告石田が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、五万円をもって相当と認める。

なお、原告石田は、本件時季変更権の行使②自体をも不法行為として主張するが、仮に同原告がこれによって精神的苦痛を被ったとしても、現実に休暇を取るという目的を達した事実等をも考慮すると、それは、本件訴訟において未払賃金の支払が命じられることによって慰謝され得る程度のものと認められ、同原告がそれ以上の精神的苦痛を受けたとの事情を認めるには足りない。

四  争点4(原告石田の請求金額の当否)について

以上のとおりであるから、原告石田の本件請求は、被告に対して

(一) 未払賃金一万四二四〇円及び内金一四三二円に対する弁済期の翌日である平成二年一二月一一日から、内金一万二八〇八円に対する弁済期の翌日である同月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二) 附加金一万四二四〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(三) 慰謝料五万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成二年一二月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があり、その余は理由がない。

(結論)

以上のとおり、原告土山及び原告石田の本件各請求は、いずれも一部理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、原告別府、原告井上及び原告高橋の本件各請求は、いずれも理由がないから棄却することとする。

なお、附加金の支払を命じた部分について仮執行の宣言を付するのは相当でないから、仮執行の宣言の申立て中、右部分については却下することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官福岡右武 裁判官飯島健太郎 裁判官西理香)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例